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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

MUMSAIC’s Opinion

鍼治療の安全性と有害事象の発生頻度

 医学文献データベースで検索すると鍼治療の後に発生したとされる様々な有害事象症例が見つかります。しかし、症例報告論文にもとづいて安全性を検討するという方法には幾つかの問題があります。
 
 第一に、医学雑誌に掲載される有害事象の症例は、気胸や中枢神経損傷などのように重篤なものが投稿・掲載され、日常的に鍼灸師がしばしば経験する軽度の気分不良(いわゆる脳貧血)などはほとんど報告されていません。逆に、たとえ深刻であっても、何度も医学論文に掲載されている有害事象はオリジナリティがないとして掲載されない場合があります。(出版バイアス)
 
 第二に、症例報告は計画的研究ではないので、有害事象が生じてから(retrospectiveに)記録や記憶をたどって論文を執筆します。そのため、因果関係や問題点を検討するために必要な情報が欠けていることが少なくありません。(想起バイアス)
 
 第三に、発生頻度の分母が不明です。すなわち、いったい何万回の鍼灸治療のなかで重篤な1症例が観察されたのかがわからないため、ある有害事象がどれくらい頻繁に起こるものなのかを知ることはできないのです。
 
 偶然に遭遇した有害事象の症例報告ではなく、研究計画を立てて現時点から未来に向けてすべてのデータを記録・収集してゆくという「前向き調査(prospective survey)」を行うことによって、よりエビデンスの強い次元で鍼灸の安全性が議論されるようになったのは1990年代半ば以降のことです。
 筑波技術短期大学附属診療所(現在の筑波技術大学東西医学統合医療センター)は、鍼管と押手を用いる日本式鍼灸(低周波鍼通電療法を含む)によって発生する有害事象を調査し、鍼灸施術総数約55,000回における発生状況を報告しました[1]。その後、イギリスの現代医学系鍼治療(施術総数約32,000回)と中医学系鍼治療(施術総数約34,000回)のグループが同様の前向き調査結果を発表しました[2,3]。興味深いことに、互いに独立して行われたこれら3つの調査における「特記すべき有害事象」の発生頻度は、日本式鍼灸治療0.12%[1]、イギリス現代医学系鍼治療0.14%[2]、イギリス中医学系鍼治療0.13%[3]と、ほぼ一致していました。いずれも気胸や折鍼などはなく、死亡や後遺症などもありませんでした。
 
 その後、ドイツからさらに大規模な鍼治療の有害事象調査結果が発表されました。ドイツの3つの地域の研究グループがそれぞれ独立して多施設共同調査を行ったのです[4-6]。その結果、ベルリンのグループ [4]では鍼受療患者数約23万人のうち気胸と折鍼がそれぞれ2人、ミュンヘンのグループ[5]では鍼受療患者約10万人のうち気胸が1人、ボーフムのグループ[6]では鍼受療患者約20万人のうち折鍼が1人に発生しました。これらの大規模調査により、少なくとも重大な有害事象が標準的な鍼治療によって発生することは非常にまれであることが示されました。
 
(山下仁. 現代臨床鍼灸学概論4.鍼灸の有害事象と安全性. 理療 2010; 40(2): 9-14より)
 
※ 適正刺激で過誤がないにもかかわらず発生する、いわゆる副作用に関してはこちらをご覧ください。
http://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1409896285
 
参考文献
1. Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, Nishijo K. Adverse events related to acupuncture. JAMA 1998; 280: 1563-1564.
2. White A, Hayhoe S, Hart A, Ernst E. Adverse events following acupuncture: prospective survey of 32,000 consultations with doctors and physiotherapists. BMJ 2001; 323: 485-486.
3. MacPherson H, Thomas K, Walters S, Fitter M. The York acupuncture safety study: prospective survey of 34,000 treatments by traditional acupuncturists. BMJ 2001; 323: 486-487.
4. Witt CM, Pach D, Brinkhaus B, Wruck K, Tag B, Mank S, et al. Safety of acupuncture: results of a prospective observational study with 229,230 patients and introduction of a medical information and consent form. Forsch Komplementmed 2009; 16: 91-97.
5. Melchart D, Weidenhammer W, Streng A, Reitmayr S, Hoppe A, Ernst E, et al. Prospective investigation of adverse effects of acupuncture in 97733 patients. Arch Intern Med 2004; 164: 104-105.
6. Endres HG, Molsberger A, Lungenhausen M, Trampisch HJ. An internal standard for verifying the accuracy of serious adverse event reporting: The example of an acupuncture study of 190,924 patients. Eur J Med Res 2004; 9: 545-551.
 
日英でのProspective Survey
ドイツでのProspective Survey