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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

日本で実施された鍼のランダム化比較試験の年代別傾向と質:システマティック・レビュー

日本で実施された鍼のランダム化比較試験の年代別傾向と質:システマティック・レビュー
 
Masuyama S, Yamashita H. Trends and quality of randomized controlled trials on acupuncture conducted in Japan by decade from the 1960s to the 2010s: a systematic review. BMC Complementary Medicine and Therapies. 2023; 23: 91
doi.org/10.1186/s12906-023-03910-3
(原文はこちら
 
医中誌Web、コクランCENTRAL、PubMed、および当研究室のファイルを用いて、日本で患者を対象として実施された鍼治療のランダム化比較試験(RCT)の論文を収集し、その傾向と質について年代別に評価しました。
 
1960年代1件、1970年代6件、1980年代9件、1990年代5件、2000年代40件、2010年代47件、合計108件のRCTが選択基準・除外基準に基づき選出され評価対象となりました。2000年以前のRCT論文はすべて日本語であり、英語の論文は2000年代に36%、2010年代に27%発表されていました。1970年代までのRCT論文の筆頭著者はすべて開業鍼灸師でしたが、その後は減少し、2000年代以降は教育機関所属の鍼灸師/学生が約8割を占めています。なお、1969年出版の木下晴都によるRCT[1]はおそらく世界初です[2]。
 
対照群の種類は、1990年以前は異なる鍼手法が、2000年代には偽鍼・偽経穴が多く、2010年代には両者がほぼ同数でそれぞれ3分の1を占めていました。対照群と比較して有意差がなかったネガティブな試験は全体の27%でした。
 
コクランのバイアスリスクツールによる評価では、「ランダム配列の生成」のみ1990年代以降に改善、「評価者の盲検化」については2000年代以降にやや改善していましたが、「割付けの隠蔽」「患者の盲検化」「選択的アウトカム報告」については、あまり変化していないか情報不足により評価困難でした。試験の規模は2010年代に至るまで小さいままであり、サンプルサイズの中央値が最も大きかった1990年代でも41でした。インフォームド・コンセントは1990年代から、倫理委員会承認の記載については2000年代から改善され始めましたが、臨床試験登録と有害事象報告については2010年代になってもそれぞれ9%、28%と低い状況が続いていました。
 
今回のシステマティック・レビューから、日本で行われた患者を対象とした鍼のRCTは、2010年代においても多くの改善の余地があることがわかりました。綿密に計画された多施設・多職種(医師および生物統計学者を含む)による鍼のRCTが臨床試験登録されてから実施されることが理想です。一方、おそらく東アジアの国々では珍しく、ネガティブな結果も正直に公表するという公正な研究姿勢が日本には早期から見られました(他の調査報告[3]から推測するとすべてが報告されているわけではないようですし、一部に所謂spin論文も認められましたが)。しかし、評価対象文献を絞り込む過程で約20%の重複出版があることもわかりました。当該領域における今後のRCTおよびシステマティック・レビューは、今回のレビュー結果を踏まえて計画・実施する必要があると考えています。
 
文献
1. 木下晴都. 坐骨神経痛と針灸. 医道の日本社; 1969: p.136–138.
2. Tsutani K, Shichido T, Sakuma A. When acupuncture met biostatistics. In: IInd World Conference on Acupuncture Moxibustion [Abstract Book]. Paris: World Federation of Acupuncture Moxibustion Societies; 1990. p. 269.
3. 志倉敬章, 若山育郎, 川﨑寛二, 戸村多郎. 2006から2010年の全日本鍼灸学会学術大会で発表された臨床試験の出版バイアス:今後の日本の鍼灸臨床研究のあり方を考える. 全日本鍼灸学会雑誌. 2018; 68: 21–31.
BMC Complement Med Ther 23, 91 (2023)