(山下 仁. 日本東洋医学雑誌 2020;71(3):251-261 より。
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茨城県内原の満蒙開拓青少年義勇軍訓練所(1938~1945年)に設置されていた「一気寮」は国家プロジェクトの一部に組み込まれた灸療所であり日本の近代医史学的に稀有な存在であるため、設置の背景や活動の実態などについて、文献収集、インタビュー、現地訪問などにより情報を集約した。
加藤完治所長の理解の下で代田文誌と田中恭平の提案により設置された一気寮は、灸療の臨床と訓練を担っていた。現存する臨床データや記録から、訓練生の健康増進と一部の疾病治療(夜尿症および結核疑い者ほか)において良好な臨床成果を挙げていたことが窺われる。一方、収集した情報からは位置的・組織的・心理的に増健部の他部署と一定の距離があることが推察された。灸療に期待される役割は時代とともに変容したが、医療手段の多様性、汎用性、補完性、持続可能性などを考える上で一気寮の発想と活動内容は今日においても示唆に富んでいる。
(本研究は東洋医学の学術的立場から調査および考察を行ったものであり、戦前・戦中の特定の国、地域、人物を支持するものでも批判するものでもありません。また、特定の政治的信条、思想、あるいは宗教について学術研究の範囲を超えて表現したり普及したりする意図はありません。)