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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

MUMSAIC’s Opinion

鍼の副作用

 発生頻度の高い副作用に関する徹底的な調査を4ヶ月間にわたって行った結果は以下の図のとおりです[1]。調査に参加した鍼灸師7名は、鍼灸を受療した患者すべてに対して施術中・施術後・次回来診時に、施術部位すべての注意深い観察と詳細な質問を行い、因果関係にかかわらず認められた症状と所見をすべて記録しました。患者数は391名、のべ治療回数は1,441回、のべ刺鍼数は30,338本でした。灸の治療頻度は低かったため十分なデータが得られませんでした。治療後の疲労・倦怠感や眠気は初診時に最も多く発現します。出血や皮下出血は鍼通電を行った場合に発生頻度が高く、刺鍼時痛は若年者あるいは女性において発生頻度が高くなります[2]。いずれの副作用も一過性であり、医学的処置は行われませんでしたが、このデータには稀に発生する深刻な副作用(あるとすれば)の情報は含まれていません。 
 
 副作用といっても、鍼灸臨床で生じる倦怠感には「心地良い気だるさ」もありますし、腰痛の鍼灸治療をしたら便秘が良くなったという場合もあります。このような反応を「副作用」と呼ぶことへの反論に配慮して「副反応」と呼ぶこともあります。あるいは、「腰痛に鍼をしたら便秘が良くなった」といった良い反応を除外する場合は、冗長ですが「意図しなかった好ましくない反応」と呼ぶのもひとつの方法です。
 医薬品の臨床試験において「副作用」と呼ぶ場合、合理的な可能性があり因果関係を否定できない反応のことを指しています[3]。しかし、鍼灸臨床においては必ずしも因果関係が否定できない反応だけを副作用と呼んでいるわけではありません。たとえば、変形性膝関節症の患者に鍼治療をした後で関節の腫脹が起こると指摘されることがありますが、過去のランダム化比較試験のデータを比較検討すると、対照群である偽電気治療(刺鍼も通電もしていない)のほうが関節腫脹例が多い論文もあります[4]。因果関係の有無については今後も議論を続ける必要があります。
 
 患者が自分の受ける診断治療法の効果、リスク、経済的負担などについて信頼性の高いエビデンスを提示された上で同意する、あるいは幾つかの治療の選択肢から自分で選ぶというのが、インフォームド・コンセント(あるいはインフォームド・チョイス)の理想的なあり方です。鍼灸臨床で今日行われている情報提供と同意文書の取得のための行為がインフォームド・コンセントと呼べるレベルに達しているとは言い切れません。なぜなら有効性・リスク・コストなどに関する十分な情報がそろっていないからです。近年は美容鍼灸の市場が急速に拡大しつつありますが、この領域においては過去には当然と受け止められていた刺鍼後の皮下出血についても詳細な情報提供が必要です。時代に合わせたインフォームド・コンセントのあり方を模索する必要があると考えています。
 
(山下仁. 現代臨床鍼灸学概論 6.鍼灸の副作用と情報伝達. 理療 2011; 41(2): 11-16 より)
 
参考文献
1. Yamashita H, Tsukayama H, Hori N, Kimura T, Tanno Y. Incidence of adverse reactions associated with acupuncture. J Altern Complement Med 2000; 6(4): 345-350.
2. Yamashita H, Tsukayama H, Sugishita C. Local adverse reactions commonly seen in Japanese-style medical acupuncture practice. Clin Acupunct Orient Med 2001; 2(2): 132-137.
3. 医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)の内容 (中央薬事審議会答申) [答申GCP]. 平成9年(1997年)3月13日.
4. Yamashita H, Masuyama S, Otsuki K, Tsukayama H. Safety of acupuncture for osteoarthritis of the knee – a review of randomized controlled trials, focusing on specific reactions to acupuncture. Acupunct Med 2006; 24(Suppl): S49-52.