江戸時代、京都に奈良弥左衛門という鍼道具店がありました。奈良弥左衛門は、幕末の京都案内『商人買物独案内』に「日本最初 /正真家元」として記される老舗でした。平成26年6月、その御子孫である奈良彌(わたる)様が家伝の資料『流儀扣』をはりきゅうミュージアムに御恵贈下さいました。
縦21.5cm、横15.0cm。白紙を除き全45葉で、90余りの鍼の流儀名と鍼具の図柄・制作上の注意事項を記した控帳です。表紙には「古来往古ヨリ」「流儀扣」「寛永二乙丑年帳面 /改天保三年壬辰調」、裏表紙には「奈良弥左衛門」と記されています。
この資料の出現によって、江戸期の鍼道具や鍼治療の流儀についての知見が大いに増すことは確実です。1例を挙げれば、従来伝書だけを通して知られていた流派が独自の鍼具を有していたことが判明しました。これは、鍼の流儀が書物の上でだけではなく、実在していたことを確かに裏付けるものです。『鍼道秘訣集』で著名な夢分流は、無分流、意斎流等異なる伝書も知られていました。これらは漠然と同じ流派であるとみなされることもありましたが、それぞれ別の鍼具を有していた以上、別の流儀であったと理解すべきです。意斎流夢分派、無分派のように分類した方がよいのかもしれませんが、これは今後の課題です。
(横山浩之. 鍼灸OSAKA 2013; 29(2): 5 より抜粋・一部改変)
この資料は鍼灸OSAKA 通巻110号より3回にわたって全てを掲載しています。
写真
前表紙 古来往古ヨリ 流儀扣 寛永二乙丑年(1625)帳面 改天保三年(1832)壬辰春調
後表紙 奈良彌左衛門
第1葉表 打鍼流儀覚 日本鍼法宗匠家本 御園意斎流
第1葉裏 御園(意斎)流 打鍼槌
第27葉裏 中神右内(琴渓)流
第28葉表 中神琴渓流(続き)