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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

抗凝固薬を投与されている患者に対する鍼治療の出血リスクは?

Hsieh HT, Chou HJ, Wu PY, Lin SK (Taiwan)
Bleeding risk after acupuncture in patients taking anticoagulant drugs: A case control study based on real-world data
Complementary Therapies in Medicine
Volume 74, June 2023 , 102951
https://doi.org/10.1016/j.ctim.2023.102951
 
 台湾の研究者たちが、抗凝固薬または抗血小板薬を投与されている患者に対して鍼治療を行った際の出血リスクをケース-コントロール研究によって検討し、Complementary Therapies in Medicine誌で発表しました。台湾の国民健康保険研究データベースの2000~2018年の記録からランダムに抽出した200万人のデータを分析したものです。
 鍼治療後に出血した人をケース群、鍼治療後に出血が認められなかった人をコントロール群に振り分けて分析が行われました。主要評価項目は、鍼治療後14日以内に記録されていた出血です。

 ランダム抽出されたサンプル200万人のうち鍼治療を受けていたのは41.7%であり、約82万人に対して行われた鍼治療約1,340万回分について、鍼治療後14日までの記録が分析対象となりました。外傷の例、事故の例、鍼治療後に医療処置も受けていた例を除外し、最終的にはケース群11,739人(軽微な出血11,165人、大規模な出血574人)がコントロール群809,263人と比較されました。

 その結果、軽微な出血(皮下出血や打撲様のあざ)の発生率は1万回刺鍼に対して8.31回、大規模な出血(血管損傷、内臓損傷、輸血の必要な状況)は10万回刺鍼に対して4.26回でした。年齢層が高いほど軽微な出血のリスクは高くなっていました。
 抗凝固薬は軽微な出血のリスクを有意に増加させており(調整オッズ比(OR)1.15(95%CI: 1.03-1.28))、鍼治療の回数と軽微な出血のリスクとの間には正の相関が認められました。一方、抗凝固薬は大規模な出血のリスクについては有意な増加を認めませんでした(OR 1.18 (0.80-1.75))。ワルファリン(OR 4.95 (2.55-7.64))、直接経口抗凝固薬(OR 3.07 (1.23-5.47))、ヘパリン(OR 3.72 (2.18-6.34))などの抗凝固薬は鍼治療後の出血リスクを増加させていましたが、アスピリンなどの抗血小板薬に有意な関連はみられませんでした。また、肝硬変、糖尿病、血友病などの血液凝固異常症といった合併症については、鍼治療後の出血のリスクファクターとなり得るという分析結果でした。

 著者らは、抗凝固薬が鍼治療後の出血のリスクを増加させる可能性があるため、鍼治療を行う際には患者から病歴と投薬状況について詳しく尋ねるべきであると結論しています。
 

 ケース-コントロール研究ですので因果関係が証明されているわけではなく、他の因子やイベントが関与して出血した例も含まれていると思います。また、過去の調査報告とは矛盾している部分があります。しかし、相対的に細い鍼を用いて主として通院患者に施術する日本の鍼灸臨床においても留意すべき貴重な情報であり、施術前の病歴聴取と慎重な刺鍼の重要性について再認識する機会にしていただきたいとMUMSAICは考えています。

※お詫びと訂正:2023年5月17日~6月5日まで、「大規模な出血(血管損傷、内臓損傷、輸血の必要な状況)は1万回刺鍼に対して4.26回」と誤記しておりましたが、正しくは「10万回刺鍼に対して4.26回」でした。お詫びして訂正いたします。
 
Hsieh HT, et al. Complement Ther Med 2023. https://doi.org/10.1016/j.ctim.2023.102951