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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

慢性腰痛に対する鍼治療に関するコクラン・レビュー2020

 2020年12月にコクランの腰痛に対する鍼治療のシステマティック・レビュー&メタアナリシスが、慢性腰痛について15年ぶりに更新されました[1]。鍼の最終治療後7日までに計測された鎮痛効果のヴィジュアル・アナログ・スケール(VAS、0~100)について紹介すると、偽治療と比較すると平均差(MD)は-9.22(95%信頼区間(CI)-13.82~-4.61)で、統計学的有意差があるがVASで15減少という臨床的に意味のある差に達しなかったとされています。通常治療と比較するとMDは-10.26(95%CI -17.11~-3.40)で、やはり臨床的に意味のある疼痛軽減には届かなかったと記載されています。ちなみに無治療と比較するとMDは-20.32(95%CI -24.50~-16.14)でした。
 
 この「臨床的に意味のある差」の使い方について、Acupuncture in Medicine誌(SAGE Publishing, Impact Factor 2.129)のMike Cummings副編集長が、英国医師鍼学会(The BMAS blog)で疑義を唱えています[2]。今回のコクラン・レビューは、慢性疼痛の臨床試験における治療評価項目に関する合意声明[3]を参考にして、臨床的に意味のある疼痛軽減をVASで15(以上の)減少と設定しています。ところが、この合意声明[3]ではこの臨床的に意味のある軽減は個々の被験者での前後差において適用すべきであり、これをそのまま群間の差の臨床的意義の判定に適用することは出来ないとされているのです。合意声明[3]には以下のように記載されています。
「個別(の被験者)における臨床的に意味のある変化の基準は、臨床的に意味のある群間差の評価に直接適用することはできない」
「たとえば、新しい鎮痛薬を評価する際に、もし(被験者)個人において0~10点の疼痛スケールで2点の減少を臨床的に意味のある軽減とするならば、その鎮痛剤の治療効果に臨床的意味があると判断するには鎮痛剤とプラセボとの間で2点の差が生じなければならないと解釈すべきではない。この場合、たとえ群間の平均差が1点しかなくても、新しい鎮痛剤で(前後差が)2点(以上)軽減した患者が相当なパーセンテージ存在するかもしれない。」[3] (注:括弧はMUMSAICが補足したものです)
 
 無治療群と比較したときの差が大きいことからもわかるように、偽鍼群や通常治療群には一定の治療効果とプラセボ効果が含まれているわけですから(こちら参照)、それらと本物の鍼治療群の差にVASで15以上の差を求めるのは厳しすぎる気がします。たとえば、慢性腰痛に対する非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の追跡期間56日(中央値)での疼痛VASの変化(つまり鎮痛効果の大きさ)は、プラセボ対照群と比較すると-6.97です[4]。(注:鍼のコクラン・レビュー[1]では「鍼の最終治療後7日まで」なので、NSAIDsのレビュー[4]と同じ計算にすると追跡期間の中央値は42~49日くらいになると思われます。)
 
 以上のこと(偽鍼の特異的効果と、臨床的に意味のある差の使い方)を踏まえると、VASのMDが偽鍼と比較して -9.22、通常治療と比較して -10.26というのは、成人の非特異性の慢性腰痛の治療選択肢として、鍼治療はそう低くない治療効果であるとMUMSAICは考えています。Cummings副編集長は前回の腰痛に対する鍼のコクラン・レビューの筆頭著者で今回も共著者になっているFurlan氏に問い合わせ、Webinarで説明を求めるようです。
 
文献
1. Mu J, Furlan AD, Lam WY, Hsu MY, Ning Z, Lao L. Acupuncture for chronic nonspecific low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2020; 12: CD013814.
2. Cummings M. Acupuncture for cLBP. The BMAS blog. 21 Dec 2020. https://bmas.blog/2020/12/21/acupuncture-for-clbp/
3. Dworkin RH, Turk DC, Wyrwich KW, Beaton D, CleelandCS, Farrar JT, et al. Interpreting the clinical importance of treatment outcomes in chronic pain clinical trials: IMMPACT recommendations. J Pain. 2008; 9: 105-121.
4. Enthoven WTM, Roelofs PDDM, Deyo RA, van Tulder MW, Koeset BW. Non-steroidal anti-inflammatory drugs for chronic low back pain. Cochrane Database Syst Rev 2016; 2: CD012087.
 
臨床的に意味のある差の適用できる場合とは?(グラフの数値は架空データ)