ヒポクラテスの言葉を引用するまでもなく、医療に携わる者が心に留めておかなければならない最も重要な教訓のひとつは「患者さんに害を与えないこと」です。しかし、臨床経験がほとんどない鍼灸学生や卒後間もない鍼灸師に、授業や講演で漠然とした教訓を話しても、身を乗り出して聞いてくれることはありません。もっと具体的なイメージやインパクトがなければ、教訓を記憶に留めることは難しいのです。
そこで、「失敗から学ぶ」という考え方にもとづいて、自分が遭遇したり見聞きしたりした具体例をマンガでぎりぎりのところまで描写してもらいました。このマンガは臨床経験が長い鍼灸師ほど笑えないかもしれません。
ある鍼灸マッサージ賠償責任保険会社の支払い対象となった施術者(すなわち過誤を起こしたとされる鍼灸師・マッサージ師)の年齢層で最も多いのは40歳代、次いで多いのが50歳代です[1]。このデータは「自分はこの考え方・やり方で何十年もやっているのだから大丈夫」などと考えるべきではないという戒めです。
鍼灸学生や卒後間もない鍼灸師だけでなく、ベテラン鍼灸師の方々にも本書を楽しんでいただき、江崎君が誰でも多少はもっている慢心の化身であると気付いていただくことを望んでいます。
(「まえがき」より)
1. 藤原義文. 鍼灸マッサージに於ける医療過誤 現場からの報告. 山王商事. 2004: 15-19.

- マンガ 鍼灸臨床インシデント 覚えておきたい事故防止の知識(増補改訂版)