• MUMSAICについて
  • 鍼灸学術情報
  • 代田文誌関連
  • はりきゅうWebミュージアム
  • ヘルスリテラシー
Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

慢性膝痛に対する鍼のネガティブRCT論文に関する論戦(Acupuncture in Medicine誌)

 以前紹介したJAMAに掲載されたHinmanら[1]による慢性膝痛(膝OA)に対する鍼治療のZelenデザインRCTの論文(http://mumsaic.jp/info/index.php?c=topics2_view&pk=1413376307)に対して、イギリスのAcupuncture in Medicine誌でAdrian White編集長とMike Cummings副編集長が反論のコメントを掲載しました[2]。
 
 彼らは、Hinmanらの論文[1]はポジティブな結果をネガティブに伝えていると主張しています。まず、患者にとって意味のあるアウトカム変化の最小量であるMinimal Clinically Important Difference(MCID)の設定が不適切だったと指摘しています。(MCIDについてはJAMAのHinmanらの論文が掲載された号に解説あり[2])。Hinmanらは主要アウトカムの疼痛に関しては100mmVASの18mm改善に相当する1.8、およびWOMACの機能項目に関しては6と設定していました[1]。この1.8という設定は効果量(effect size)に換算すると0.6であり、他の研究と比較して高い値であるというのです(https://twitter.com/drmike001/status/558204619902681089/photo/1)。
 
 また、鍼を偽レーザーと比較した点や、すでに鍼通電のほうが効果が大きいことがコクランレビューで示されているのに使わなかった点なども不適切であると指摘しています。最適の条件でないやり方でも慢性膝痛の患者に鍼治療が有用であったことをHinmanらは示したのだと述べ、膝OAに対する鍼治療の効果量は0.89、温浴が0.65、運動が0.55であったというネットワーク・メタアナリシスの結果[4]を紹介しています。
 
 これらの反論に対してHinmanらは返答のコメントをAcupuncture in Medicine誌に投稿しました[5]。彼女らは、WhiteらのMCIDの解釈は評価項目の絶対的な効果量と患者間のバラツキを混同していると言います。そしてメタアナリシスなど他の研究で示している鍼の効果量(偽鍼と比較したとき)は小さくて臨床的には意味のない差異であると述べ、それらに合わせて小さなMCIDに設定するのは意味がないことを示唆しています。また、マニュアル鍼を行ったことについては、最新のメタアナリシス[6]で鍼通電が特に優れているとは示されなかったことを挙げています。
 
 Hinmanらは、無治療と比較して鍼治療、レーザー治療、偽レーザー治療が無治療よりも疼痛軽減に有効であるが、それらは物理的効果というよりはむしろプラセボ効果によるものであると述べ、OAのように長く対処していかなければならない疾患の場合、運動や減量といったセルフケアに注力すべきであるのに、鍼のような受け身の治療を推奨すべきなのか?と問いかけています。
 
 ちなみに、JAMAのWebサイトではHinmanらの論文のLast authorであるBennellがインタビューに答えており[7]、今回採用したZelenデザインの特徴を踏まえ、彼女らの研究結果は鍼治療が効くと信じている患者には当てはまらないと述べています。議論はさらに多くの学術雑誌や学会で続くと思いますが、今回のRCTは「受ける治療を患者がどう受け止めているか」が治療結果に予想以上に大きな影響を与えるという、医療における重要な教訓を示していると思います。
 
 
1. Hinman RS, McCroy P, Pirotta M, Relf I, Forbes A, Crossley KM, et al. Acupuncture for chronic knee pain A randomized clinical trial. JAMA. 2014; 312(13): 1313-1322.
2. White A, Cummings M. Acupuncture for knee osteoarthritis: study by Hinman et al represents missed opportunities. Acupunct Med. 2014; doi:10.1136/acupmed-2014-010719.
3. McGlothin AE, Lewis RJ. Minimal clinically important difference Defining what really matters to patients. JAMA. 2014; 312(13): 1342-1343.
4. Corbett MS, Rice SJ, Madurasinghe V, Slack R, Fayter DA, Harden M, et al. Acupuncture and other physical treatments for the relief of pain due to osteoarthritis of the knee: network meta-analysis. Osteoarthritis Cartilage. 2013; 21(9): 1290-1298.
5. Hinman RS, Forbes A, Williamson E, Bennell KL. Acupuncture for chronic knee pain: a randomized clinical trial. Authors’ reply. Acupunct Med. 2015. doi:10.1136/acupmed-2014-010727.
6. MacPherson H, Maschino AC, Lewith G, Foster NE, Witt CM, Vickers AJ; Acupuncture Trialists' Collaboration. Characteristics of acupuncture treatment associated with outcome: an individual patient meta-analysis of 17,922 patients with chronic pain in randomized controlled trials. PLoS One. 2013; 8(10): e77438. doi: 10.1371/journal.pone.0077438.
7. Author Interview. JAMA 2014-09-30, http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1910110