ヘルスリテラシーについて鍼灸師にも患者さんにも有用でわかりやすい入門書としてMUMSAICがお薦めするのは、島根大学医学部附属病院臨床研究センター長である大野智教授による著書「健康・医療情報の見極め方・向き合い方」(2020、大修館書店)です。玉石混淆の健康情報・医療情報が大量に拡散している、いわゆる「インフォデミック」の状況下で、どのような点に注意しながら信頼性と有用性の高い情報を選び出すのか、そのノウハウが身近な例を挙げながら平易な文章で解説してあります。
まず、インターネット検索、「3た」論法、経験談、権威者の発言、細胞や動物での実験など、一見説得力のあるように感じられる情報の落とし穴について理解できます。次に、どのような研究手法で得られた情報がより信頼性が高いのかを示したうえで、さらにそこにも潜む不確実性を指摘しています。さらに、世の中でしばしば見聞きする健康情報や医療情報に仕組まれたさまざまな心理効果についても説明が加えてあります。もちろん情報を見極めるための具体的なポイントやお薦めサイトも紹介しています。
特にMUMSAICが評価しているのは、わかりやすい身近な例です。たとえば、正確な情報すなわち信頼性が高いエビデンスが得られたとしても、治療方針の意思決定は患者さんの価値観その他を考慮しながら、医療者と患者さんがよく話し合って決定すべきものです。その「価値観は人それぞれであって正しい・間違いはない」「価値観は時と場合によって変化する」ということを説明するにあたって、「降水確率何%で傘をもっていく?」という例を挙げています。降水確率が50%であっても、傘をもっていくと判断する人もいれば、もっていかないと判断する人もいて、どちらが正しい・間違いではない。また、普段は着ない高い服を着ているときは判断が異なる、といった具合です。EBMにおける臨床決断で考慮されるべき因子や背景について、とても納得できるたとえです。
このように、非常にわかりやすく短時間で最後まで読めますので、タイトルにあるとおり健康情報・医療情報の「見極め方」と「向き合い方」を知り、ヘルスリテラシーを身につけるために最初に読むべき最適な書籍のひとつです。
(著者である大野智教授は厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』のサイト「eJIM」(https://www.ejim.ncgg.go.jp)において文献調査委員会代表を務めており、MUMSAICはこのサイトの日本鍼灸エビデンスレポート(EJAM)の作成を受注していますが、この書籍を推薦することによってMUMSAICが受ける利益や便宜等は一切ありません。)
- 健康・医療情報の見極め方・向き合い方(大野智、大修館書店、2020)