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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

MUMSAIC’s Opinion

鍼の適応症とNIH

すでに説明したWHOの場合(http://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1409896618)と同様に、ネットや鍼灸関連パンフレットにはしばしば鍼の効果に関する米国NIH(国立衛生研究所または国立保健研究所)の合意声明が紹介されています。これも解釈には注意が必要です。正確には、NIHが召集した合意形成パネル会議による独立した声明であり、NIHや連邦政府の政策声明とは違います[1]。
 
 1997年、NIHは鍼に関する合意のためのパネル会議(Consensus Panel)を開催しました。NIHは、国民全体に関わってくる重要な健康の案件が科学的に見直されてきたり、解釈が変わってきたり、多くの研究データが蓄積してきて実用可能性が出てきたり、意見の対立があったりする場合に、専門家のパネルを召集して科学的データに裏付けられた一定の合意を形成するとしており[2]、鍼も議論に必要な研究データが集まったので開催されることになったのです。このパネル会議では鍼の有効性、安全性、研究方法論、保健医療体系に組み入れるための課題などが討論された後、合意声明が発表されました。多くの研究データの質が十分でないため明確な結論は導けないとしながらも、鍼の有効性に関して次のように記述しています[1,3]。
 
有望である
  成人の術後および化学療法による嘔気・嘔吐
  歯科の術後痛
  妊娠悪阻
 
補助療法として有用、あるいは包括的患者管理計画に含める可能性がある
  薬物中毒
  脳卒中後のリハビリテーション
  頭痛
  月経痛
  テニス肘
  線維性筋痛症
  筋筋膜痛
  変形性関節症
  腰痛
  手根管症候群
  喘息
 
 しかし、この合意声明が発表されてから15年以上経過した今日において、当時とは比べ物にならない数のランダム化比較試験(RCT)が実施され、RCTデータのメタアナリシスも進んだことによって、新たに有望とされる疾患・症状が加わったり逆に有望なリストから外されたりしています。今では、この1997年の合意声明は臨床的実用性というよりは歴史の一部という認識となっており、適応症を論じる題材とするには古すぎます[4]。
 
 2002年にはWHOのEssential Drugs and Medicines Policy伝統医学部門から鍼灸に関する報告書が発行されました[5]。ここには「臨床試験によって有効性が証明された」という多数の疾患・症状がリストアップしてあります。疾患・症状が多い理由は、この報告書が臨床試験論文の選択基準、除外基準、質の吟味を明確にしないで、鍼が有効という結論となっている臨床試験論文がある場合はすべて「有効」としているためです。このWHOレポートの科学的中立性のなさについては、多くの医学者・科学者から厳しい批判を浴びています。

 時代の流れに即した科学的にもっと説得力のあるデータや資料が出てきています(当サイトの「鍼灸学術情報」に紹介していきます)ので、今後は新しい情報が使われてほしいものです。
(山下仁「理療」40巻1号(2010年)より抜粋・改変)
 
1. Acupuncture. NIH Consensus Statement 1997; 15(5)(Nov 3-5): 1-34.
2. Ferguson JH. NIHの鍼灸の合意形成会議とその後. 全日本鍼灸学会雑誌 1999; 49(3): 369-374.
3. 米国国立衛生研究所(NIH)合意形成声明. 全日本鍼灸学会雑誌 1998; 48(2): 186-193.
4. 髙澤直美. NIH 鍼のコンセンサス形成会議10 周年記念S AR (Society for Acupuncture Research) 学術集会2007報告. 全日本鍼灸学会雑誌2008; 58(1): 87-92.
5. Acupuncture: review and analysis of reports on controlled clinical trials. WHO Geneva, 2002.