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MUMSAIC’s Opinion

鍼の適応症とWHO

  ネット上や鍼灸関連パンフレットでは、しばしば「WHOが認めた鍼の適応症」のリストなるものを見かけます。鍼灸学校の教科書にも「WHOの見解」としてこのリストが載っています。しかし実は「WHOが認めた適応症」という表現は正しくありません。
 
 1979年6月に、鍼灸に関するWHO地域間セミナーが北京で開催され、12ヶ国からの参加者が鍼の領域の研究、臨床、トレーニング、および用語などの基準について討論しました。このセミナーで、鍼が役に立つとされる疾患の暫定リストが作成されたのです[1]。このリストには、注釈として次のようなコメントが付されています:「このリストは臨床経験にもとづくものであり、必ずしも対照群を置いた臨床試験にもとづくものではない;さらに、特定の疾患を含めたのは、鍼の有効性の範囲を示すことを意図としているのではない」。つまり、リストに列挙されたのは鍼の効果が「WHOによって認められた」あるいは「研究によって証明された」といった症状・疾患ではないのです。さらに、この北京でのセミナーで合意が得られていたのは30疾患のみであったのに、その後の中国の働きかけにより公表時には49疾患に増えたという裏話もあるようです[2]。
 
 「WHOが認めた鍼の適応症」という表現は、出版された当時においては許容されたのかもしれませんが、EBMの考え方が医療界に普及した現代において、この表現と暫定リストを批判的吟味なしに引用するのはいかがなものでしょうか。今後このリストをヒントとして、現代の他の治療と比較しても臨床的に有用性があるのかどうかを科学的に検証していく必要があると考えます。すでに現代的研究手法で有効性のエビデンスが提示され、学会や公的機関の診療ガイドラインに掲載されるようになった症状や疾患があります。世界の鍼灸の研究と臨床は、30年以上前の暫定リストに頼らなければならないほど遅れてはいません。日々進歩しているのです。
 
1. Bannerman RH. The World Health Organization viewpoint on acupuncture. Am J Acupunct 1980; 8(3): 231-235.
2. 津谷喜一郎. 新年の言葉. 医道の日本2006; 65(1): 74.