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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

軽微な会陰皮膚刺激の夜間頻尿改善効果:偽鍼対照RCTや小児鍼の議論に有用な知見

 鍼の特異的効果を検出するためにランダム化比較試験(RCT)では偽鍼対照群がしばしば用いられますが、偽鍼は薬剤の臨床試験で用いられるプラセボとは異なり、かなり治療効果があるという指摘があります(http://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1409866439)。また、刺入しない偽鍼よりも刺入する偽鍼のほうが鎮痛効果が高いとされています(http://mumsaic.jp/info/index.php?c=topics2_view&pk=1417785320)。最近、軽微な会陰皮膚刺激(鍼ではありません)が高齢女性の過活動膀胱による夜間頻尿を改善する可能性を示唆するエビデンスが、日本の研究チームにより報告されました[1]。論文の中で言及されているわけではありませんが、MUMSAICは偽鍼や小児鍼など軽微な刺激の臨床効果を説明するうえで重要な知見だと考えています。
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0151726
 
 東京都健康長寿医療センター研究所自律神経機能研究室のHottaらは、麻酔ラットの会陰部皮膚への非侵害性の軽い刺激による排尿収縮抑制は、柔らかい弾性をもつエラストマー性ローラーによる刺激では有効だが、硬い表面のポリスチレン製ローラーでは効果がないことを報告しました[2,3]。この現象がヒトにおいても認められるかどうかを検証するため、帝京平成大学大学院のIimuraはHottaらとともに、高齢女性の夜間頻尿に対する軽微な会陰皮膚刺激に関するランダム化、プラセボ対照、ダブルブラインド、クロスオーバー試験を実施しました。
 
 夜間頻尿のある高齢女性24名をランダムに2群に分け、1群は先にエラストマー性ローラー(実ローラー)で就寝前に自分で会陰に1分間刺激を3晩行ってもらい、4晩のウォッシュアウト期間を経て、ポリスチレン製ローラー(偽ローラー)で同じ刺激を3晩行ってもらいました。もう1群は偽ローラー→ウォッシュアウト→実ローラーの順です。主要評価項目は夜間頻尿の頻度です。[1]
 
 その結果、22名が最後まで試験を完遂し、22名全体では実ローラー刺激期間と偽ローラー刺激期間との間に有意差はありませんでした。しかし、過活動膀胱の被験者9名について分析すると、実ローラー刺激期間における夜間頻尿減少率のほうが偽ローラー刺激期間のそれよりも有意に改善していました。(-0.74±0.7 vs. -0.15±0.8, 95%CI -1.1 to -0.07, p=0.031, d=1.12)。すなわち高齢女性の過活動膀胱による夜間頻尿に対しては、表面の柔らかい弾性のあるローラーによる会陰刺激が症状緩和に役立つ可能性が示唆されたのです。Iimuraらは、それまで行ってきた基礎研究の結果から、低閾値皮膚機械受容性の有髄および無髄線維の興奮が脊髄のオピオイドシステムを活性化することによって膀胱-骨盤副交感神経反射を抑制するというメカニズムを考察しています。[1]
 
 この一連の研究は、基礎研究で得られた知見を臨床応用に橋渡しして検証するトランスレーショナル・リサーチです(http://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1434951049)。試験実施前に臨床試験登録が間に合わなかったこと、ブラインドの成否をチェックしていないこと、主要アウトカムでなく被験者の一部のサブ解析であること、夜間頻尿の回数そのものの比較でないことなど、今後の展開における改善点はみられますが、鍼の臨床試験における偽鍼の臨床効果、小児鍼の自律神経に対する影響、鍉鍼や小児鍼における刺激の強さや種類など、鍼灸の研究を議論するうえで示唆に富んだ知見を示してくれた研究だと考えています。
 
1. Iimura K, Watanabe N, Masunaga K, Miyazaki S, Hotta H, Kim H, et al. Effects of a gentle, self-administered stimulation of perineal skin for nocturia in elderly women: a randomized, placebo-controlled, double-blind crossover trial. PLoS ONE. 2016; 11(3): e0151726.
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0151726
2.Hotta H, Masunaga K, Miyazaki S, Watanabe, N, Kasuya Y. A gentle mechanical skin stimulation technique for inhibition of micturition contractions of the urinary bladder. Auton Neurosci. 2012; 167: 12-20.
3. 飯村佳織, 宮崎彰吾, 渡邉信博, 堀田晴美. 麻酔下ラットの会陰部皮膚領域に対する触刺激の違いが排尿筋収縮に及ぼす影響. 自律神経. 2014; 51(3): 168-173.
Translational Research