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Morinomiya University of Medical Sciences Acupuncture Information Center

鍼灸学術情報

慢性膝痛に対する鍼のネガティブRCT論文に関する論戦(JAMA誌)

 JAMAに掲載されたHinmanら[1]による慢性膝痛(膝OA)に対する鍼治療のZelenデザインRCTの論文(http://mumsaic.jp/info/index.php?c=topics2_view&pk=1413376307)に対して、前回Acupuncture in Medicine誌で掲載された議論を紹介しましたが[2,3](http://mumsaic.jp/info/index.php?c=topics2_view&pk=1422096238)、今度はこのRCTが掲載されたJAMA誌2月10日号のComment & Response欄で議論が展開されました。
 
 
 フロリダ州Oriental Family MedicineのHeは、Hinmanらが行った慢性膝痛の鍼治療法は適切でないと指摘しています。最初の8週間は週に2回行われるべきだし、鍼の刺鍼深度や得気の有無も記載していないというのです。また、有効と思われる鍼通電も行っていないことを指摘し、このRCTで言えるのは、一貫性のない鍼治療処方は慢性膝痛の患者の役には立たないということだと主張しています。[4]
 
 ニュージーランドOtago大学のBaxterとTumiltyはレーザー鍼について、システマティック・レビューで確認された有効な刺激量は最低でも0.5J必要なのにHinmanらは0.2Jしか使っておらず、レーザー鍼機器の出力量も10mWと低いものだと指摘しています。[5]
 
 スイスBern大学のFleckensteinとドイツGoethe大学FrankfurのBanzerは、Hinmanらが採用したMinimal Clinically Important Difference(MCID)は痛み41%、身体機能26%の改善と設定されたが、その根拠となったのは効果が中等度で不安定なNSAIDを投与されていた試験にもとづいているため不適切であると述べています。他のいくつかの試験にもとづいてMCIDを設定するならば、疼痛の改善は25~30%ではないかというのです。また、すでにVickersらが実施したメタアナリシスで、OAにおける対照群に対する鍼の標準化平均差(SMD)は0.57であり、さらにデータが追加されてもこの結果は簡単に変わらないとされている[6]ことを挙げて、Hinmanらの鍼を支持しないという結論には賛成できないと述べています。[7]
 
 香港大学のLaoとYeungは、Hinmanらが事前に発表したプロトコール[8]では主たる検討項目が鍼、偽レーザー鍼、無治療と比較したレーザー鍼の効果、および無治療と比較した鍼の効果であったにもかかわらず、結果で鍼治療が無治療よりも優れていたことがわかったのに慢性膝痛の鍼を支持しないという結論はおかしいのではないかと指摘しています。また、Laoらのチームの行ったRCTの結果にもとづき、もっと頻回で短期的な評価を行えば、鍼の治療効果と維持効果を見いだせるのではないかとも述べています。[9]
 
 ニュージャージー州Herb Acupuncture ClinicのLiは、HinmanらのRCTが2009年Australia New Zealand Clinical Trials Registryに登録された時点でも、2012年のプロトコール[8]においても、鍼と偽レーザー鍼を比較することが目的や仮説ではなく、レーザー鍼に注目した試験であったことを指摘しています。HinmanらのRCTにおいて、もともと鍼はレーザー鍼と比較するためのactive(効果がある)な対照群であったのに、結論で「鍼は偽治療群よりも効果がない」とするのは、post hoc(あと出し、後知恵)の仮説だというのです。 また、Hinmanらが「鍼施術者をブラインドできない」から偽鍼対照群が設定できないと説明しているのは、鍼が介入群でなかった(レーザー鍼の対照群とされていた)という事実と矛盾していると述べています。[10]
 
 
 以上の多くの批判や意見に対してHinmanらは以下のように返答しています[11]。
・鍼治療の方法は実際の臨床に即した形でフレキシブルに12週間で8~12回の治療とし、得気は行った。
・メタアナリスでは鍼の数や刺鍼部位、電気刺激の使用、治療の回数・頻度・機関がアウトカムに影響しなかったとされている[12]。
・レーザー鍼はオーストラリアの鍼の学術団体の勧告と教育内容にしたがったが、今回の結果が自分たちの行った治療法においてしか一般化できないという点については認める。
・今回の結果と事前に設定したMCID、およびOARSIの基準にしたがえば、我々の結論は正しい。
・12週目にもっと臨床的に意味のある改善があったならば、1年後の追跡評価でもいくらか良い効果が維持されているのではないか。
・確かにプロトコールでは鍼と偽レーザー鍼の比較について明記していなかった。プロトコールの統計解析のところでそれぞれの群との比較も行うことを含めて書いたつもりだが、誤解を招いたならば陳謝する。
・偽レーザーが鍼の臨床試験の対照群として妥当であるという論文がある。偽鍼に効果がありすぎるという批判もあるので、偽レーザー鍼を選択したことによって、我々は鍼ではできない患者のブラインド(マスキング)ができた。
・メタアナリシスで無治療と比べて鍼の効果量(effect size)が0.57だったというが、偽鍼と比較したときの効果量はかなり小さく(0.16)、臨床的な意義があるかどうか疑問である。
・患者、臨床家、政策者は自分たちの経験と信条にもとづいて鍼に関して決定を下すであろう。メタアナリシスではポジティブな結果が出ても、イギリスのNICEは今でも臨床的有用性が確定していないとして変形性関節症に対する鍼の適用を勧告していないではないか。
 
 
 議論は他の学術雑誌や学会でもまだまだ続きそうです。MUMSAICとしては、伝統医療の検証においてZelenデザインのRCTが患者の意思を酌んだ臨床的有用性を評価することに役立つのかどうかについても議論を深める必要があると考えます。
 
 
1. Hinman RS, McCroy P, Pirotta M, Relf I, Forbes A, Crossley KM, et al. Acupuncture for chronic knee pain A randomized clinical trial. JAMA. 2014; 312(13): 1313-1322.
2. White A, Cummings M. Acupuncture for knee osteoarthritis: study by Hinman et al represents missed opportunities. Acupunct Med. 2014; doi:10.1136/acupmed-2014-010719.
3. Hinman RS, Forbes A, Williamson E, Bennell KL. Acupuncture for chronic knee pain: a randomized clinical trial. Authors’ reply. Acupunct Med. 2015. doi:10.1136/acupmed-2014-010727.
4. He H. Treating chronic knee pain with acupuncture. JAMA. 2015; 313(6): 626.
5. Baxter GD, Tumilty S. Treating chronic knee pain with acupuncture. JAMA. 2015; 313(6): 626-627.
6. Vickers AJ, Linde K. Acupuncture for chronic pan. JAMA. 2014; 311(9): 955-956.
7. Fleckenstein J, Banzer W. Treating chronic knee pain with acupuncture. JAMA. 2015; 313(6): 627.
8. Hinman RS, McCrory P, Pirotta M, et al. Efficacy of acupuncture for chronic knee pain: protocol for a randomized controlled trial using a Zelen design. BMC Complement Altern Med 2012; 12: 161.
9. Lao L, Yeung WF. Treating chronic knee pain with acupuncture. JAMA. 2015; 313(6): 627-628.
10. Li YM. Treating chronic knee pain with acupuncture. JAMA. 2015; 313(6): 628.
11. Hinman RS, Pirotta M, Bennell KL. Treating chronic knee pain with acupuncture (in reply). JAMA. 2015; 313(6): 628-629.
12. MacPherson H, Maschino AC, Lewith G, Foster NE, Witt CM, Vickers AJ; Acupuncture Trialists' Collaboration. Characteristics of acupuncture treatment associated with outcome: an individual patient meta-analysis of 17,922 patients with chronic pain in randomized controlled trials. PLoS One. 2013; 8(10): e77438.